1966年、福岡県生まれ。小説家。福岡県立福岡中央高校卒業。
19歳から書き続け、24歳で放送局の脚本家としてデビュー。
'00年、『裸』(文藝春秋)が第30回九州芸術祭文学賞を受賞し小説家デビュー。
'03年、『しょっぱいドライブ』(文藝春秋)で第128回芥川賞受賞。
'05年、『傷口にはウオッカ』(講談社)で第15回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。
やさしく強く世の中のかたちにとらわれず、人間味ある作品で多くのファンをもつ。
羽衣
幼なじみのサヤが泊まりに来た。
「まずはパジャマパーティーだよ」
って言ったかと思ったら、女豹のような柄のワンピースをおもむろに脱ぎ、スポーツ用のブラとショーツ姿になる。汗のたまった褐色の胸元、均整のとれた惚れぼれするプロポーション。エクササイズスクールでインストラクターをしているのだ。
「ぐずぐずしない。ミナも早く着替えなさい」
サヤは察しているのだろう。私が失恋でこの二日間、寝こんでいたことを。私はむかしから、失恋すると、着替えもせず、ごはんも食べずに、ただ布団のなかで悲しむ。ほんとうはだれかにそばにいてほしい、でもやっぱりいてほしくない、でもいてほしい、と思いながら悶々と。
「ほら、シャンパンと魚のフリッターとスイカと水羊羹。ミナの好物、ぜんぶ買ってきたよ、これで景気づけだ」
って、もたもたパジャマに着替える私のお尻を、ぺしっと叩くサヤ。サヤなりの励ましかたはいつだってすこし乱暴。
「しかしなによ、この部屋は。ちゃんと整理整頓しなさい。わあ、ミナ、なんでこんな古いブラなんかとってあるの? まるで中学生のとき初めて買ったのを後生大事にしてるみたいに」
タンスの引き出しをのぞいてサヤは呆れる。
「だっていつか使うかもしれないし」
と、私はかぼそい声でこたえる。
「だめだめ、なに言ってるの。日々、からだのラインは変わるんだよ。太ったり、痩せたり、それに合わせて下着も替えるものなんだよ」
「へえ、そうなの」
「うん、こころだって日々、変わるでしょ。昨日のことはもう忘れかけてるんじゃない? 今日は今日なんだし、明日になったらすこしだけいいことあるかもだよ、ね」
サヤは真珠のような色の歯を見せて、にっこり笑った。テヘッと私も笑った。
ひとしきりシャンパンとつまみでおしゃべりをしてから、パジャマを脱ぎ、キャミソール姿になって、二人、布団にもぐった。何年ぶりだろう、こんなふうに仲良く眠るのは。どっちのキャミソールもふうわりと羽衣みたいに軽い。からだがとてもリラックスしている。サヤは腕枕までしてくれた。おたがい社会人になってからはあまり会えなくなっていたけれど、この腕は、かたくって、頼もしくって、男の子たちを次々になぎ倒した、力こぶのあるあのなつかしい腕。というか、むかしよりも確実に鍛えられ、カチンコチンにかたくなっている…。朝、起きたら首が筋肉痛だったことは、黙っていよう。
「朝のはじまりは、まずウォーキングからだ」
って厳しくおっしゃるサヤ、ショッキングピンクのトレーニングウエアがよく似合うね。
「特別なことはしなくっていいから、正しい姿勢に気をつけて、颯爽と歩くことをこころがけるだけで違うからね、では出発」
キュッと上向きに引きしまった生意気ヒップのサヤを後から追いかけながら私は、スポーツ用の下着がむずむずと欲しくなってきた。
Illustration YORIKO KISHI