1966年、福岡県生まれ。小説家。福岡県立福岡中央高校卒業。
19歳から書き続け、24歳で放送局の脚本家としてデビュー。
'00年、『裸』(文藝春秋)が第30回九州芸術祭文学賞を受賞し小説家デビュー。
'03年、『しょっぱいドライブ』(文藝春秋)で第128回芥川賞受賞。
'05年、『傷口にはウオッカ』(講談社)で第15回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。
やさしく強く世の中のかたちにとらわれず、人間味ある作品で多くのファンをもつ。
トレードマーク
潔い白。自分にはその色が一番似合っていると信じて疑わなかった。そのわたしが十九歳になってやっと、白以外に挑戦しようとしているのだから、自分でも遅れてるなあとあきれてしまう。
きっかけは、いっしょに暮らすおばあちゃん。
小さいころからわたしはおばあちゃん子で、今でもときどきいっしょにお風呂に入り、背中の流し合いっこなどする。「下着は洗濯機にかけちゃだめ。いつもからだを守ってくれてるんだから、自分の手でやさしく洗うこと」という教えも、お風呂場で受けた。
ついさっきも、わたしたちはめいめい薔薇の香りの石鹸で洗いながら、ぺちゃくちゃおしゃべりした。
「下着に凝るのって、女のひそやかな楽しみなのよねえ」
そう言う六十五歳のおばあちゃんは、わたしよりもあきらかにおしゃれな人。ブラもパンティも、そんな色どこで売っているんだろうというくらい、渋くて大人っぽい赤ワイン色。銀髪で色白のふくよかなおばあちゃんに、悔しいほど似合っている。
「だれかに見せたいんじゃないの。ただ自分で自分が、まだまだ女だって感じられればそれでいいの」
もう夫は死んじゃって、いない。茶飲み友達なら五、六人いる。こないだは二人の男性に求婚されたという。でもだれにもなびかない。
「ねえねえ、ほら、もっとよく見てごらんよ」
そう言われ、わたしはその手触りのよいブラとパンティに小さく銀色のパラソルの刺繍がしてあるのを、発見した。雨の日は気分が落ち着くから好きだという、おばあちゃんならではのトレードマーク。
おおっ。女って、こういう細かいところから差がついていくのかもしれない。
今のわたしはつき合っている人もいなくて、アルバイトばかりの日々。
これって女を楽しんでないんじゃない? 服も白なら、ブラだって白。こだわるというより、白だと無難だから身につけているのだ。
恋をしてはいなくても、女を忘れたくないねえ。これから夏へ向けて、ひまわり色のブラなんてどうだろう。内側からあかるく照らされていれば、外側にもそのあかるさがきっと滲み出るよ、ね、うん。
お風呂あがり、くいっと銀髪をうしろでしばり、おしろいをはたき、唇にうすく紅を差すとおばあちゃんは、
「また新しくボーイフレンドができたの、ああ忙しい忙しい」
うふふ、と余裕しゃくしゃくな笑みを浮かべ、手をひらひら振って出かけていった。
わたし、負けないからね。
だからおばあちゃんも、 わたしに負けないでね。
Illustration JUNKO MOTO