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トリンプエッセイ/Triumph Essay
三浦 しをん
1976年、東京都生まれ。小説家・随筆家。早稲田大学第一文学部卒業。
出版社に就職活動中、入社試験の作文から執筆の才能を見いだされる。
'00年、処女小説『格闘する者に○』(草思社)を出版。
'06年、第135回直木賞を『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋)で受賞。
『風が強く吹いている』('06年/新潮社)は2007年本屋大賞で第3位。
ほかに、小説『仏果を得ず』(双葉社)、エッセイ『悶絶スパイラル』(太田出版)など著書多数。
〜Special Short Story〜
「サムシング・ブルー」
 年度末が迫り、残業や休日出勤で、ショッピングを楽しむ暇すらない。
 疲れはてて深夜に帰宅し、ベッドに倒れ伏していたら、控えめなノックとともに妹が部屋に入ってきた。
「お姉ちゃん? 寝ちゃった?」
「んー」
「買ったまま、箪笥にしまいっぱなしだったブラがあるんだけどさ。いま、してみたら、ちょっときついんだよね。私、太ったのかなあ」
「んー」
「お姉ちゃんなら、たぶん合うと思うから。よかったら使って。ここ置いとくね」
「んー」
 夢うつつで返事した。
 翌朝、目覚めると、テーブルのうえに澄んだ青色のブラジャーが置いてあった。前夜のあやふやな記憶を掘り起こしつつ、ブラジャーを手に取った瞬間、時計が目に入った。一気に覚醒した。急がないと遅刻だ。

 その週末は土日とも、なんとか休みをもぎ取った。ひさしぶりにゆっくり街を歩く。
 雑貨や安価な化粧品を売っている店で、鮮やかな青いマニキュアを見つけた。妹にもらったブラジャーの色と似ている。たまには休日にマニキュ アを塗るのもいいかと思い、購入することにした。
 買い物でいくらか気分転換でき、夕方、軽い足取りで家に帰った。早速、青いマニキュアを手足の爪に塗る。乾くのを待って、青いブラジャーをつけてみる。肌の色によく映える。わざと、Tシャツにジーンズというあっさりした服に着替えた。爪と、見えないけれどブラジャーだけが、美しい青なのだと思うと、うきうきしてきた。
「お姉ちゃん、今日、お父さんとお母さんはデートだって。夕飯どうする?」
「そうだね、二人でどっか食べにいこうか」
「うん」
 とうなずいた妹は、マニキュアに気づいた。「うわあ、その色きれい。ほら、結婚式のとき、青い物を身につけるといいって言うじゃない? なににしようかなあと思ってたんだけど、そのマニキュアを塗ろうかな」
「貸してあげてもいいけど、爪の青い花嫁さんなんて、どうかしら」
 私と妹は笑いあいながら、ご飯を食べに出かけた。新しい生活をはじめる妹の幸せを願って、サイズの合う青いブラジャーをプレゼントしようかな。
私は晴れやかな気持ちで、考えをめぐらせた。
 
 
Illustration KAYANO
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